2020/5/28
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【引きこもり事件簿】元農水事務次官長男殺害事件とは何だったのか |
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2019年5月28日、長期引きこもりの容疑者が児童を殺害するという事件がおき、そのわずか4日後、今度は引きこもりの父親が、引きこもりの息子を殺害するという事件をおこし、世間の大きな注目を浴びました。 それが、元農水事務次官長男殺害事件です。引きこもりが起こした凶悪事件が4日後、また官僚のトップである元事務次官が起こした事件ということもあり、事件はマスコミの格好のターゲットとなりました。 居場所をテーマに活動するコミニティの立場から、事件の背景や動機を調査しました。 <dl><dd></dd></dl>【引きこもり事件簿】元農水事務次官長男殺害事件とは何だったのか川崎通り魔事件のわずか4日後、世間を騒然とさせる事件がまたも発生します。2019年6月1日、練馬区の住宅にて、熊沢英昭容疑者から、息子(熊沢英一郎さん)を刺殺したと110番通報がありました。 容疑者は元農林水産省の事務次官、そして息子が引きこもりだったことで、世間の大きな注目を集めました。これが通称、”元農水事務次官長男殺害事件”です。 被害者は引きこもり元農水事務次官長男殺害事件は、川崎通り魔事件と共に、引きこもり問題で特に注目された事件です。 まず練馬事件では被害者が引きこもりであった事、また川崎通り魔事件のわずか4日後に起こったこと、そして警察に対し、加害者である父親が以下のように語っており、二つの事件を結びつけた報道が多くみられました。
被害者、および加害者家族の経歴被害者である熊沢英一郎さんは、いつからかは不明ですが働かずにゲーム中心の生活を送っていたようです。加害者、および被害者の経歴をみてみましょう。 熊沢英昭容疑者の経歴熊沢英昭さんは事件当時72歳、1943年生まれです。東大法学部を卒業後、農林水産省に入省。2001年には省庁のトップである事務次官に任命されるという、まさにエリート中のエリートです。 事務次官就任後は、BSE問題の責任をとって辞任を余儀なくされますが、その後は農協共済総合研究所の理事長や、チェコ駐箚特命全権大使を務めるなど、活躍しています。 熊沢英一郎さんの経歴熊沢英一郎さんは、事件当時44歳、1975年生まれ。中学、高校は名門校として名高い駒場東邦へ入学。その後大学を中退し、代々木アニメーション学院へと通い、父親のつてで福祉施設に就職。 その後は長らく無職だったと思われます。(通っていた大学や大学後の足取りについては、はっきりした事実がわかっておりません。) また英一郎さんは、アスペルガー症候群であり、18歳の時いじめにより統合失調症を発症したと語っています。 英一郎さんは、ホームページを開設しており、twitterもやっていました。いまでもホームページ、およびtwitterアカウントはなんと残っています。 熊沢英一郎さんのTwitterアカウント
事件の動機、背景は?事件の直接の動機になったと思われるのは、被害者である英一郎さんの家庭内暴力です。 事件の一週間前、独り暮らしをしていた英一郎さんは、近隣住民とゴミだしのトラブルがあり、実家に戻ってきました。 加害者である父親と、母親は、被害者である、熊沢英一郎さんから激しい家庭内暴力を受けていたことがわかっています。 その暴力はかなり苛烈なものだったようです。
また、事件前には「インターネットで「殺人」「量刑」などのキーワードを検索していたと言われています。家庭内暴力で追い詰められ、もはや息子を殺すしかない、そんな考えにとらわれてしまったのでしょうか。 そして7日後、ついに事件がおこります。事件当日、小学生の運動会の音に激高した英一郎さんは「殺すぞ」と発言。 自らの命の危機感を感じた容疑者が英一郎さんを包丁で刺殺しました。
被害者が抱えていた生きづらさ果たして、なぜ被害者である英一郎さんはここまで苛烈な家庭内暴力に走ったのか。英一郎さんについて調べていくうちに、幾つか考えられる背景が見えてきました。 障害による孤立英一郎さんは、小さいころから「空気が読めない」などといじめにあっていました。 アスペルガー症候群などの発達障害は、最近でこそ世間に認知されてきましたが、英一郎さんが少年時代を過ごしていた年代は、 そんな中、周りへの理解を得られないままに学生時代を過ごしたことは、英一郎さんにとって大変つらい環境であったことは想像に難くありません。 また、英一郎さんは、母親からかなり激しく叱責され、特に妹との間に劣等感をもっていました。
そして、妹さんは自殺してしまっていることがわかっています。 また、障害の特性からか、激高しやすい性格でもあったようです。 ここからは完全なる私の推測ですが、英一郎さんは小さいころから周りに理解されず生きづらさを抱えていた。そして厳しい母親に叱責され、「普通」である妹との間に激しい劣等感を持っていたとしてもおかしくありません。 熊沢容疑者はゲームに多額の課金をするなど、経済的に困窮した状態ではありませんでした。しかし、自分が社会とも家庭ともつながっていないと感じており、その葛藤の矛先が家族へと向かっていたのではないでしょうか。
被害者、そして家族の孤立熊沢容疑者は官僚です。当然、社会からの支援制度などは熟知していたはずです。しかし、支援機関の相談が行われないままに、悲劇は起きてしまいました。 容疑者は、英一郎さんの趣味であるアニメ会社への就職を手伝ったり、 また、英一郎さんは、Twitterで父親についてたびたび言及。事務次官まで務めた父親を誇りに思っているととれる発言を何度もしています。
しかし、実際には家庭内暴力が起こり、結果として悲劇的な結末を迎えてしまいました。金銭的に恵まれ、ゲームの中に自分の世界を持っていても、英一郎さんは、自分の人生への葛藤をもっていたのではないかと思います。 エリートの父親、教育に厳しい母親、そして自分より優秀な妹の存在。 そして容疑者も、エリートだったからこそ、自身の子供の状況を外部に相談することができなかったのではないでしょうか。 この事件は英一郎さんの孤立、そしてその家族の孤立という、2重の孤立が引き起こした悲劇なのではないかと感じました。 8050問題が叫ばれる今、第2、第3の練馬事件が起こらないことを心より願うばかりです。 終わりに引きこもりは決して本人だけの問題ではなく、その家族にとっても大切な問題です。ひいては、それは社会というコミニティの問題でもあるといえるのではないでしょうか。 これからも私はいきづらさをもつ人達に関心を持ち続けたいと思います。本日もお読みいただき、ありがとうございました。 |
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